相続財産には「感情」があるんです

相続財産には、お金としての価値だけではなく、「感情」があります。

・その財産を築いてきたお父さんの感情
・お父さんが亡くなった後、その財産を受け取るあなたの感情
・お母さんや、ほかの兄弟姉妹の感情

それぞれ立場が違いますから、当然、想いも違います。

では、財産を残す側のお父さんは、どんなことを考えているでしょうか。

「そもそも私の財産なんだから、私の好きなように分けたい」

「子どもたちへの愛情に差はないから、平等に分けたい」

「長男は社会人になってからほとんど実家にも帰ってこない。あいつにはあまり残したくない」

「長女には障がいがある。私がいなくなった後が心配だから、できるだけ多く残してあげたい」

「自分が死んだ後、妻の老後を長男にみてもらいたい。その分、長男に多く残したい」

「法律では妻が2分の1、残りを子どもたちで分けるらしい。でも妻の老後のお金も必要だし、この家を売るわけにもいかない。どうしたらいいんだろう」

どれも、その人にとっては理由があります。

だから相続は、計算だけでは答えが出ないのです。

家族には相談しにくい

そんなことを考えているお父さんですが、子どもたちにはなかなか相談できません。

「財産の話なんてしたら、子どもたちはどう思うだろう」

「まだ元気なのに、死んだ後の話なんてしたくない」

そんな気持ちもあるでしょう。

そこで金融機関などへ相談し、遺言信託という方法を知ることがあります。

自分の意思を遺言として残し、亡くなった後にはその内容に沿って遺言を執行してもらう。

遺言信託そのものが悪いわけではありません。

財産の内容や家族の状況によっては、有効な選択肢になることもあります。

ただ、私はその前に一つ考えてほしいことがあります。

「遺言を作る前に、家族で話すことはできなかっただろうか」

ということです。

遺言書を作れば、家族は揉めないのか

法的にきちんとした遺言書を作る。

とても大切なことです。

しかし、

「法律的に正しいこと」と「家族が納得すること」は、同じではありません。

例えば、お父さんが長男に多く財産を残す遺言を作ったとします。

そこには、お父さんなりの理由があったのかもしれません。

ところが、その理由を何も聞かされていなかった他の兄弟からすれば、

「なぜ兄貴だけなんだ」

となるかもしれません。

遺言書には財産の分け方は書けても、長年積み重なってきた家族の感情まで整理してくれるわけではありません。

そして相続が始まったとき、お父さんはもうそこにはいません。

「なぜ、こんな分け方にしたの?」

そう聞きたくても、本人には聞けないのです。

私はここに、相続の難しさがあると思っています。

大切なのは「遺言か、家族会議か」ではありません

遺言信託を使う。

公正証書遺言を作る。

税理士に相談する。

司法書士に相談する。

必要なら、どれも使えばいいと思います。

でも、その前にできることがあります。

家族で話すことです。

全員が100%納得する必要はありません。

「お父さんは、そんなことを考えていたんだ」

「お母さんの老後については、そういう考えだったんだ」

「妹の将来を心配していたから、この分け方なんだ」

それを家族が知っているだけでも、相続が起きた後の受け止め方は変わります。

相続対策というと、

「いくら相続税を減らせるか」

「誰にいくら残すか」

「どんな遺言書を作るか」

という話になりがちです。

でも、その前に考えてほしい。

その財産に、それぞれの家族がどんな想いを持っているのか。

そこを置き去りにして、相続対策だけを先に進めてしまうと、後になって家族関係にヒビが入ることがあります。

家族会議の進め方は、100家族あれば100通りです。

正解はありません。

だからこそ私は、財産の話をする前に、まず「家族の話」をすることが大切だと思っています。